今年最初の地球環境『自然学』講座は、1月15日(土)午後1時〜4時まで大阪会場で開催されましたが、ふるさと創生大学では研究棟でリモート受講をしました。
講師は、自然観察指導員熊本県連合会会長つる祥子先生で、「流域治水と地域社会創生〜令和2年球磨川大水害に学ぶ〜」というテーマでした。
つる先生は、八代市の八代海側の河口に住んでおられると自己紹介をされ「球磨川の水害はどこでも起こりうる」と話されました。
漢方の薬剤師をされている先生が、ダム問題に取り組んだのは、子どもにアトピーやアレルギーなどが多いのは、水に起因しているのではないか、との思いから川の調査をしたのがきっかけでした。
また、先生は川の流れを人体の血流に例えて球磨川を検証した結果、ダムが流域の人々に大きな影響を与えているとしてダムの撤去を提案された方でした。
この提案には、ダムのない時代を知る流域住民の強力な後押しがあったそうです。球磨川では、かつて尺アユが獲れ、水質日本一と言われた川の再生を願う声と、ダム下流域の住民がダムの放流で家中の壁にひび割れが出るとの深刻な問題があったためと言われます。
その結果、2018年に日本で初めてダムが撤去されましたが、それが球磨川の河口から20kmのところにあった荒瀬ダムです。
球磨川は、116kmの流域で熊本の南部を流れ、かつて川漁が盛んな時代には、川のそばで暮らしても「水害」という言葉はなかったそうですが、ダムの水位の急激な上昇と流速で水が引くと臭いヘドロで埋まり、「水害」という言葉が生まれたと言われます。
このような経緯で荒瀬ダムが撤去されると、想像以上に自然が早く戻り、旅館の再開や食堂にアユ料理が復活し、川遊びやラフティングの賑わいが出て地域一丸となって再生に向かっていたそうです。
一方、球磨川流域の本流には、瀬戸石ダムの他に2基のダムがあるうえ、国からはさらに巨大ダム構想があり、地元住民との間で12年間治水計画が平行線をたどっていた中で今回の水害が起きました。
この度の球磨川流域の水害は、6時間雨量500oを超える大雨で、家屋や橋の流失、道路の寸断で大被害をもたらしました。
発災後、つる先生はトレイルランをするグループらと現状把握に努めたそうですが、ダムの上流域と下流域での被害の格差に驚いたと言います。上流域では軽微な被害に対して、瀬戸石ダムの下流域では、瀬戸石駅のホームの土台が深くえぐられていたそうです。
とはいえ、今回の被害がダムだけに起因するものではありません。鹿の食害で下草のない山からの土砂流失、皆伐地や手入れのされていない人工林の崩落もあり、林道や砂防ダムの河畔林も含めた見直しが必要とされています。
先生は以上のまとめとして、「川の問題は、流域全体で考えないと健康な川と海は戻ってこない」と話されました。
参考までに、と先生が指摘されたのは、海外のダム撤去例で、アメリカでは1477基ものダムが撤去されており、ヨーロッパ全体ではすでに4984ものダムが撤去されたとのことでした。
また、韓国でもダムの撤去が進んでいるそうですが、いずれも住民から「海と川がつながらないとサーモンがもどらないとか、自然の回復が進まない」との要望から実現したとものだといわれます。
先生の締めくくりの文言は、「アメリカの真似をする日本が、なぜダムだけは真似しないのでしょうか?」でした。
文責 藤井洋治
posted by 一般社団法人文化政策・まちづくり学校 at 21:52|
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